INTERVIEW

インタビュー

農キャリアトレーナーによる
プログラムの卒業生たちのリアルボイス

鎌倉市農業就労体験セミナーをきっかけに、農業の道へ

上谷 幸 さん

会社の仕事を辞めたことで自分と向き合う時間が取れた

2020年の5月に、これまで働いていた着物関係の会社から解雇に合い、失業保険をもらいながら過ごす生活を送ることになりました。その時は、「父の看護をしながら人生を見つめ直す時間が欲しい」と思っていたので、意外にも、「こういうゆっくりする時間もありだな」と思っていました。会社では長い物には巻かれろ”というところもあったので、私はその点働きづらさを感じていました。着物が好きで会社に勤めているはずなのに、会社で働いている間は、「好きな仕事に関わることができて幸せ」という感情を持つこともなくなっていました。また、「将来的には和裁を教えたいなあ」とぼんやりと思っていても、平日の仕事が終わると、体力・気力ともになくなっていて土日は失った体力や気力を回復するために費やす日々、、、自分のやりたいことを考え、行動に移していくための時間を取ることはできませんでした。

鎌倉市の農業体験セミナーを経て藤沢市農スクールに参加

休職中は、コロナのパンデミックによる緊急事態宣言と、看護をしていた父が他界してしまったことも重なり、家から出ない日が多くなる生活が続きました。今思えば、その時は半分引きこもり状態になっていたのかもしれません。そのとき自分で野菜を育ててみたいなあと思っていたこともあり、家庭菜園でミニトマトを育て始めていました。そんなある日、家に届いた広報誌で鎌倉での就労体験(鎌倉農スクール)の案内を見かけました。これまで農業をしたこともなかったので、自分自身ができるか不安でしたが、家庭菜園で農の知識をつけたいと思っていたこと、外に出るきっかけも欲しいと思っていたので、勇気を出して活動に参加してみました。鎌倉農スクールの活動に実際に参加してみて、より一層農業の知識を深めていきたいと思うようになりました。そのように考えていた中、鎌倉農スクールの参加者の方に藤沢での農スクールのことを教えてもらいました。鎌倉での農スクールで活動は月に1回でしたが、藤沢での農スクールは週に1回だったので、より高頻度で農業に触れる機会を持つことになりました。藤沢での農スクールは、働きづらさを抱えた方や引きこもりの方を対象に行われていたプログラムでしたので、どんな方々と農業をしていくことになるのだろうと、少し緊張しながら参加しました。、当初はうまくやれるか少し不安もありましたが、続けていくうちに、受講生の皆さんが話すようになったり、自分自身も柔軟になっていきました。

農スクールは自然と足を運べる場所

私自身も、心理的・体力的にも変化を感じるようになりました。会社で働いていた頃は、朝起きて「体調が悪いな」と思ったら休むことを選択することが多かったです。農スクールにきてからは朝起きて「今日は行くのが面倒だな」と思っても、実際に来てみてると気分が晴れていき億劫さもなくなっていました。そのような経験を重ねるうちに、朝起きて「行きたくないな」と思っても、とりあえず行ってみようと思うように変わっていきました。

女性の農園経営者のもとへ農家実習に行ったことで自分に合った農のスタイルをイメージしやすくなった

特に影響を受けたのは基礎編での農家実習で女性経営者のお話を伺った時です。その方は、農業をしながら美容師さんをされていました。私自身、会社を辞めてから自分自身の好きなものを改めて考えたときに、「着物」「農業」ということが二つ浮かんでいたので、できれば半農半Xという関わり方で農業に関わって行けたらという気持ちを持つようになりました。そのような中で、ロールモデルとなる方のお話をお伺いすることができ、どのような規模感の畑だったら一人で切り盛りできるのか、生活スタイルはどのように送るのかなど実際に見て・聞くことができたのでとても良い経験になりました。自分自身に合った農との関わり方というのもイメージしやすくなったように思います。

現在はサポートされる側からサポートする側へ

農スクールでのプログラムを受けた後、キャッシュ・フォー・ワーク(CFW)の取り組みで、経済的な支援を受けながら、農作業を行う活動に参加しました。CFWの活動内で、畑を開墾し自分たちの好きな野菜を植えて育てるという一連の作業を行いました。全ての工程を1から自分たちで考えて行う中で、自分自身が上手くいった経験も上手くいかなかった経験も、人に伝えられそうかもと思うようになってきました。農業には決まったやり方はなく試行錯誤で行っていくところもあると思います。そのような中で、自分で体験したことは周りの人に伝えていけるし、そのような活動を通して、誰かをサポートしていければと思いました。現在は、縁あって鎌倉農スクールでのサポートをさせていただいています。

将来は半農半Xで多品目野菜を育てながら、伝統技術である和裁を伝えていく人材を目指す

農業で、小さい種から野菜が育つところをみて、「生活していくことができる」という自信がついた感覚を覚えました。そのようなことも影響してからか、自分の人生をより主体的に選べるようになった気がします。その上で、「自分の好きなことって何だろう?」と考えたときに、農業と着物がポンと出てきて、着物への思いというのも再燃してきたと思います。今の夢は、農業をして、多品目の野菜を育てること。また、日本の伝統技術である和装を教えていけるような半農半Xの生活をしていくことです。

さまざまなバックグラウンドを持った人たちと関わることで人生を楽観的に捉えることができるように

農スクールに参加してから笑顔になることが多くなりました。今までは物事を深刻に捉える性格でした。もともと楽観的な性格だったのかもしれませんが、社会生活を送る中でそのようにならざるを得ない状況だったのかもしれません。この変化には様々なバックグラウンドを持った受講生の方達との関わりが影響していると思います。例えば、会社にいるときには「会社勤めしかない」という狭い感覚を持っていたので不安になることも多く、それが原因で気分が上下することもありました。今はいろんな生き方をすることができるのだなと思うことができています。

一歩を踏み出すことを迷う方にメッセージ

1年前の私は今このような状況を想像していませんでしたが、勇気を出してプログラムに参加してよかったと思います。夢中になって畑作業をしていたら、視野が広がっていった気がします。そして、農スクールの活動を通して、「自分の人生はいつでもやり直せる」ということがわかりました。最初の一歩を踏み出すことには勇気がいると思いますが、ぜひ踏み出してみるといいと思います。きっと世界が広がりますよ。